リブレによる血糖値の連続測定
血糖値を連続測定するフリースタイルリブレを使った経験について記す。内容は無保証です。
リブレとは
血糖値は血液中のグルコース濃度であり、通常は医療機関で採血して測定するか、自ら指先に針を刺して(穿刺)微量の血液を採取して測定する。Abbott社が製造するFreeStyleリブレは、上腕部に小さな針(フィラメント)がついたセンサーを装着して、血糖値を連続的に測定する。スマホでセンサーに集積された血糖値のデータを読み取り、その場で上の画像のような血糖値変化のグラフを確認することができる。センサーは14日間装着し続けて、その間針の差し替えや採血をすることなく血糖値を連続的に測定できるので、血糖値の変化を知るには測定毎に針を刺す穿刺と比べて手軽である。
ここで、リブレは血管まで針を刺しているのではなく、皮膚直下の浅いところにまでしか刺していない。また、この記事によれば針は打ち込んだ後すぐに元に戻って電極だけが体内に残るため、センサーを装着したまま生活してもそれほどの違和感はない。そして、細胞と細胞との間に存在する液体(間質液)のグルコース濃度を測定している。そのため、リブレが測定しているのは血糖値すなわち血液中のグルコース濃度ではないが、このページで説明されているように、リブレが測定する間質液中のグルコース濃度は血糖値との間に相関がある。リブレでは上の画像のように「グルコース値」と表記されるが、この記事ではわかりやすく「血糖値」と表記する。
血糖値測定の流れ
まず、リブレはインスリン療法を行っている患者には保険適用となっている。保険適用とならない場合にも、センサーを全額自己負担で購入して測定をすることは可能である。センサーはアマゾンや楽天で購入できる。センサーを読み取るためのリブレ専用のリーダーがセットで販売されているものもあるが、NFC搭載のスマホであれば、iPhone、アンドロイドともにリーダーとして使用できるため、専用リーダーの購入は必須ではない。ここでは、スマホを使って読み取る方法を中心に記す。
スマホにはFreeStyleリブレLinkというアプリを入れる。最初にリブレViewのアカウント登録が必要となる。センサーの装着方法はこのページを参照。装着後にセンサーをスマホで起動する。もしリーダーを持っている場合にはリーダーで起動する。リーダーで起動した後にスマホで読み取ることは可能だが、スマホで起動した後にリーダーで読み取ることはできないためである。スマホのアプリでセンサーを起動する準備ができたら、スマホのNFCチップ部位をセンサーにかざすことでセンサーが起動する。起動後60分後から血糖値の読み取りが可能となる。それから14日間、センサーは血糖値の測定を続ける。その測定された値をスマホで読み取ることができる。14日後に血糖値の測定が終了したら、センサーを取り外して廃棄する。
リブレセンサーの読み取りについては、リブレのバージョンごとに記す。
センサーによる読み取り(リブレの場合)
単に「FreeStyle リブレ」と記されている商品は最初のバージョンである。日本では2016年5月に医療機器として承認された。
センサーは1分間に一度自動的に血糖値を測定し、15分ごとに過去15分間の代表的な血糖値をセンサー内部のメモリに保存する。メモリには15分おきの血糖値が8時間分だけ保存される。8時間を超えると、古いデータから削除される。スマホで血糖値を読み取ると、その時点における血糖値が表示されるとともに、メモリ内部に保存されている血糖値がスマホのアプリに読み取られる。したがって、8時間以内の間隔で読み取りを続ければ、切れ目なく15分ごとの血糖値の値を読み取ることができる。読み取られた値は、アプリで連続的なグラフとして表示される。
センサーによる読み取り(リブレ2の場合)
リブレのバージョン2、すなわち「FreeStyle リブレ 2」は、日本では2021年4月に医療機器として承認され、2024年1月23日にアボットとスズケングループが契約を締結したことで販売が開始された。Amazonや楽天における販売価格を見ると、リブレ2はBluetooth機能がついていることもあり、リブレよりも若干高めとなっている。
リブレ2は、センサーがスマホとBluetoothで通信できるようになっている。センサーは1分ごとにスマホへ自動的に連続で測定データを送信する。その際に、通信距離は遮るものがない状態で6メートルとされている。また、スマホではBluetoothを有効にして、アプリをバックグラウンドで起動した状態で使用する必要がある。このように、リブレ2を使うことで、スマホを近くに置いておけば、センサーをスキャンする操作をすることなしに自動的に読み取ることができる。
Bluetoothの通信に失敗する状態が5分間継続するとアプリには「受信圏外」と表示される。また、通信に失敗した期間があると、その期間のグラフは途切れて表示される。その場合は、アプリ右上のマークをクリックしてセンサーをスキャンする(スマホのNFCチップ部位をセンサーにかざす)ことで、センサーに保存されている8時間分のデータが取得される。
また、アプリでリブレ2センサーを読み込ませると、以下のアラートを設定することができる。特に、インシュリン治療をしていて低血糖時に速やかに警告を受け取りたいときには有効であろう。
- 低グルコース値アラート: 血糖値が設定した値よりも低くなったとき
- 高グルコース値アラート: 血糖値が設定した値よりも高くなったとき
- 受信圏外アラート: センサーがアプリと通信していないとき
リブレ3について
リブレ2の次のバージョンであるFreeStyle Libre 3は、2022年5月31日にアメリカの食品医薬品局(FDA)で承認されたが、この記事を更新した時点(2024年2月24日)では、日本ではまだ販売されていない。サイズがさらに小さくなっているようである。
血糖値の長期的傾向の把握
アプリにはデータが90日保存され、蓄積された血糖値のデータのトレンドを見る以下のような日内パターン(AGP)などを表示できる。
測定されたデータはリブレViewのアカウントによってクラウドに保存され、パソコンからリブレViewにログインすれば、AGPなどのレポートをPDFファイルとして閲覧、ダウンロードできる。測定値をcsvでダウンロードすることも可能である。レポートでは、たとえば以下のような「食事時間パターン」が示され、食後どの程度の時間で血糖値が上昇するのかの傾向を知ることができる。ここで、食事時間は食事をするときにその都度スマホから入力してアプリに教える必要がある。また、リブレViewには医療機関とデータを共有する機能があり、私は受診している糖尿病専門医にデータを共有し、医師に直接血糖値の変化を確認してもらっている。
糖尿病専門医大坂貴史先生のYouTubeチャンネルくろまめちゃんねるには、糖尿病に関する解説動画の中で、リブレをはじめとするいくつかの持続血糖測定器(CGM)についての解説がされている。
リブレを使ってみて
リブレをしばらく使って感じたことや考えたことを列記する。
- 食後に血糖値が上昇し、ピークに到達した後に緩やかに下降するという傾向を連続的に確認できるのは良い。特に、どんな食事をすれば血糖値がどの程度上がるのか、運動をしたらどうなるのか、というようなことをリアルタイムのデータで見ることができるのは良い。
- 食事の順番として、野菜、タンパク質、炭水化物という順番が良い、とされている。野菜やタンパク質をあまり食べずにいきなり炭水化物を摂取すると、血糖値の上昇は急激になり、また血糖値のピークが高くなりやすい。
- 医師からは食事と食事の間の時間に食べる間食は避けて、お菓子を食べるのであれば食後のデザートとして食べるのが良いと言われている。炭水化物を単体で食べると血糖値が上がりやすいこと、血糖値が下がっている状態をなるべく長い時間キープしたいことから、それが重要であることが血糖値の測定により理解できた。
- 炭水化物の摂取量と血糖値の上昇量は比例するとされているが、まったく同じ食事をしても、血糖値の上昇量が大きいときと小さいときにはかなりの差がある。血糖値が上昇するスピードも一定ではない。
- 食後に運動をすると良い。よく15分程度歩くだけでも良いと言われるが、私の場合はその程度の運動ではあまり血糖値の上昇を抑える効果が見られないことが多い。血糖値を下げる筋トレ×有酸素程度の激しい運動をすれば、効果がある。食後、リブレのデータを時々確認して、たとえば150を超えたら運動をするといったようなことを心がけている。歩いているときであれば、時々走りを入れると良い。私の場合に最も効果があるのはケトルベルである。激しい運動をすることで、直接的にグルコースを消費することから、グルコースの上昇が抑えられ、また低下へと転じる。運動後、しばらく低下してから再び上昇に転じることもあり、そこでさらに運動を追加する場合もある。
- 運動によって血糖値上昇のピークを下げることができるが、血糖値が低下した時の平常値についてはすぐには変化がない。ところが、運動によってピークを下げることを続けていると、次第に平常値も下がってくる。これは、糖尿病によって常に血糖値が高い状態にあると、体が血糖値が高い状態が正常だと思うようになり、高い状態で安定させてしまうところ、ピークを下げることによって平常値も正常化されてくるということだろう。これを長期間続けることで、次第に平均的な血糖値の値が下がり、ヘモグロビンの値も正常化してくる。
- 風呂に入っている間はリブレの値が上昇する。これは、実際に血糖値が上昇しているのか、体温の上昇によって測定値が実際の血糖値よりも大きく出るようなセンサーの特性があるのか、本当のところは分からない。風呂に入るのは食後よりは食前が良いのかもしれない。なお、サウナに入るとその期間は測定値が上昇するが、その後も問題なくセンサーは動いている。FAQに「センサーを付けたままでサウナに入れますか?」という質問があるので参照。
- ある日、病院で採血して、その場で看護師が簡易測定した血糖値156を教えてくれた。その時に、リブレで測定された値は184であった。その後、検査機関で測定された値は171と報告された。この時は、血糖値の簡易測定もリブレも誤差は同程度であり、いずれも10%以内であった。間質液グルコース濃度は血糖値の値から時間遅れがあるため、血糖値の上昇、下降時にはずれが生じるが、空腹時血糖を採血によって測定する場合には、時間的な変化は少ないため(それでもかなりの変化を示していることはあるが)、リブレの測定値と検査機関が測定した血糖値は、それなりにあっている。なお、装着後1日は値があまり正確ではないとよく言われる。
- 保険適用とならない場合、恒常的に使用するとコストも大きい。ある程度の傾向がつかめたら、たとえば1カ月か2ヶ月に1回リブレを装着するという使い方でも良いであろう。また、それほど深刻ではない場合でも、試しに2週間だけつけて自分の血糖値変化を見れば、食事と運動による血糖値の変化のパターンを知ることができて生活習慣の改善に役立つように思える。特に、通常の健康診断では空腹時血糖を測定することから、食後の血糖値スパイクを見ることができないため、血糖値変化の様子を確認できることは有益であろう。
- センサーを外すときは、3M キャビロン 皮膚用リムーバーを使うとスムーズに剥がれる。
- ツイミーグとジャヌビアの服薬の効果について、医師と相談しながら血糖値のトレンドとして確認することができている。
2024年2月24日に、リブレ2に関する記述を本文に追加した。また、リブレと比べたリブレ2の利便性について記す。
- 食後に血糖値がある程度上昇したときに、運動をするという習慣をつけているため、センサーを読み取る操作なしにリアルタイムで血糖値が更新されるのは、手軽に運動を開始するタイミングを知ることができてありがたい。
- 一例として、血糖値が150を超えてから運動を開始し、その後190を超えるまで上昇するが、そこから血糖値が下がり出す。この場合に、1分ごとの測定値では190を超えるところまで上昇することがみてとれるが、15分間の平均として表示されるため、下がり始めるとそのピークの値は記録されず、ピークは170あたりになったりする。リアルタイムで表示を追うとそのような状況が見えるが、センサー読み取りで時々見ると最終的に15分間の平均された値しか見ることができないので、その値の差を感じ取ることができる。