著者:関 勝寿
公開日:2023年10月8日
キーワード: environment

IPCC (Intergovernmental Panel of Climate Change; 気候変動に関する政府間パネル) は、気候変動(地球温暖化)に関する科学的な研究成果を収集、整理して公表している国際的な学術機関である。1988年に世界気象機関 (WMO) と国連環境計画 (UNEP) により設立された。

次の3つの作業部会 (Working Group) に分かれている。

第1作業部会 WG I 科学的知見
第2作業部会 WG II 脆弱性、影響、適応
第3作業部会 WG III 排出抑制と気候変動の緩和

これまでに、以下の報告書が公表された。報告書はそれぞれの作業部会の報告書が刊行と統合報告書があり、そのすべてが刊行された年次でまとめている。

年次 報告書 略称 本文
1990年 第1次評価報告書 FAR WG1 WG2 WG3 統合
1995年 第2次評価報告書 SAR WG1 WG2 WG3 統合
2001年 第3次評価報告書 TAR WG1 WG2 WG3 統合
2007年 第4次評価報告書 AR4 WG1 WG2 WG3 統合
2014年 第5次評価報告書 AR5 WG1 WG2 WG3 統合
2023年 第6次評価報告書 AR6 WG1 WG2 WG3 統合

第5次評価報告書 (AR5) の第1作業部会「政策決定者向け要約 (SPM; Summary for policymakers)」の図表をこちらのページにまとめた。

第6次評価報告書 (AR6) についての情報は環境省のページにまとめられている。第1〜第3作業部会それぞれの報告書及び統合報告書について、SPMの和訳と解説資料がある。また、2018年に公表された「1.5°C特別報告書」などに関する資料もある。総合報告書のSPMについては和訳概要がある。このページでは、第1作業部会報告書と統合報告書のSPMの図をまとめる。

第1作業部会報告書のSPMに掲載されている図と主要な知見

出典:IPCC第6次評価報告書第1作業部会報告書 政策決定者向け要約 暫定訳(文部科学省及び気象庁)

図 SPM.1: 世界平均気温の変化の歴史と最近の温暖化の要因 図 SPM.2: 1850〜1900年を基準とした2010〜2019年の観測された昇温への寄与の評価 図 SPM.3: 観測及び要因特定された地域的な変化の統合的評価
図 SPM.4: 本報告書で使用される5つの例示的なシナリオにおける、気候変動の主要な駆動要因の将来の人為的な排出量と駆動要因のグループごとの昇温への寄与 図 SPM.5: 年平均気温、降水量、及び土壌水分量の変化 図 SPM.6: 陸域における極端な高温、陸域における極端な降水、並びに乾燥化地域における農業及び生態学的干ばつの強度と頻度に予測される変化
図 SPM.7: 5つの例示的なシナリオにおける、2100年までに陸域と海洋の吸収源に旧収集される累積人為起源CO2排出量 図 SPM.8: 本報告書で使用される5つの例示的なシナリオの下での地球規模の気候変動に関する主な指標 図 SPM.9: 気候影響駆動要因の変化が予測されるAR6 WG1参照地域の数の統合的評価
図 SPM.10: 累積CO2排出量と世界平均気温の上昇量との間のほぼ線形の関係

主要な統合的知見の抜粋

A. 気候の現状

  • A.1 人間の影響が大気、海洋、及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない。大気、海洋、雪氷圏、及び生物圏において、広範かつ急速な変化が現れている。(図SPM.1, 図SPM.2)
  • A.2 気候システム全般にわたる最近の変化の規模と、気候システムの多くの側面における現在の状態は、数百年から数千年にわたって前例のないものである。(図SPM.1)
  • A.3 人為起源の気候変動は、世界中のすべての地域で多くの極端な気象と気候に既に影響を及ぼしている。熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧などの極端現象について観測された変化に関する証拠、及び、特にそれらの変化が人間の影響によるとする要因特定に関する証拠は、AR5以降強まっている。(図SPM.3)
  • A.4 気候プロセス、古気候的証拠、及び放射強制力の増加に対する気候システムの応答に関する知識の向上により、平衡気候感度の最良推定値は3°Cと導き出され、その推定幅はAR5よりも狭まった。

B. 将来ありうる気候

  • B.1 世界平均気温は、考慮された全ての排出シナリオの下で、少なくとも今世紀半ばまで上昇し続ける。向こう数十年の間にCO2及び他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に1.5°C及び2°Cの地球温暖化を超える。(図SPM.1, 図SPM.4, 図SPM.8, 表SPM.1)
  • B.2 気候システムの多くの変化は、地球温暖化の進行に直接関係して拡大する。これには、極端な高温、海洋熱波、大雨、及びいくつかの地域における農業及び生態学的干ばつの頻度と強度の増加、強い熱帯低気圧の割合の増加、並びに北極行きの海氷、積雪及び永久凍土の縮小が含まれる。(図SPM.5, 図SPM.6, 図SPM.8)
  • B.3 地球温暖化が続くと、世界の水循環が、その変動性、地球規模のモンスーンに伴う降水量、及び湿潤と乾燥に関する減少の厳しさを含め、更に強まると予測される。(図SPM.5, 図SPM.6)
  • B.4 CO2排出が増加するシナリオの下では、海洋と陸域の炭素吸収源が大気中のCO2蓄積を減速させる効果が低下すると予測される。(図SPM.7)
  • B.5 過去及び将来の温室効果ガスの排出に起因する多くの変化、特に海洋、表彰、及び世界の海面水位における変化は、数百年から数千年にわたって不可逆的である。(図SPM.8)

C. リスク評価と地域適応のための気候情報

  • C.1 自然起源の駆動要因と内部変動は、百年規模の地球温暖化にはほとんど影響しないが、特に地域規模で短期的には人為的な変化を変調する。起こりうる変化全てに対して計画を立てる際には、これらの変調を考慮することが重要である。
  • C.2 より一層の地球温暖化に伴い、全ての地域において気候影響駆動要因(CIDs)の同時多発的な変化がますます経験されると予測される。1.5°Cの地球温暖化と比べて2°Cの場合には、いくつかのCIDsの変化がより広範になるが、この変化は、温暖化の程度が大きくなるとますます広範かつ/又は顕著になるだろう。(図SPM.1, 図SPM.9)
  • C.3 氷床の崩壊、急激な海洋循環の変化、いくつかの複合的な極端現象、及び将来の温暖化として可能性が非常に高いと評価された範囲を大幅に超えるような温暖化などの可能性の低い結果は排除できず、リスク評価に関係する。(図SPM.1)

D. 将来の気候変動の抑制

  • D.1 自然科学的見地から、人為的な地球温暖化を特定の水準に制限するには、CO2の累積排出量を制限し、少なくとも正味ゼロのCO2排出を達成し、他の温室効果ガスの排出も大幅に削減する必要がある。CH4排出の大幅、迅速、かつ持続的な削減は、エーロゾルによる汚染の減少に伴う昇温効果を抑制し、大気質を改善させるだろう。(図SPM.10, 表SPM.2)
  • D.2 GHG排出が非常に少ない又は少ないシナリオ(SSP-1.9及びSSP1-2.6)は、GHG排出が多い又は非常に多いシナリオ(SSP3-7.0又はSSP5-8.5)と比べて、温室効果ガスとエーロゾルの濃度及び大気質に、数年以内に識別可能な効果をもたらす。これらの対照的なシナリオ間の識別可能な際は、世界平均気温の変化傾向については約20年以内に、他の多くの気候影響駆動要因についてはより長い期間の間に、自然変動の幅を超え始めるだろう(確信度が高い)。(図SPM.8, 図SPM.10)

統合報告書のSPMに掲載されている図

AR6統合報告書のSPM(政策決定者向け要約)に掲載されている図はFiguresにまとめられている。以下に、図のリード文の和訳とそれぞれの図へのリンクをまとめる。

図 SPM.1: 人間起源の気候変動による悪い影響は強まり続ける 図 SPM.2: 地球温暖化が進行するにつれ、地域レベルの平均的な気候や極端現象がさらに広がり、大きくなる 図 SPM.3: 将来の気候変動は、自然及び人間システムにわたって影響の深刻度を増大させ、地域間の差異を拡大させる
図 SPM.4: 温暖化が進行するにつれてリスクが増大している 図 SPM.5: 温暖化を1.5°Cと2°Cに抑えるには、急速かつ大幅で、ほとんどの場合緊急の温室効果ガスの排出削減が必要である 図 SPM.6: 気候にレジリエントな開発を可能とする機会の窓が急速に閉じている
図 SPM.7: 気候対策のスケールアップする機会は数多く存在する